「損切りばっかりで利益が出ない…なんで?」
プロスペクト理論を知れば、落ち着いて挑めるかもしれません。
- 人が、不確実な環境ではどのような行動をするか、という理論。3つの思考過程がある。
- 編集でまず問題を簡略化し、
- 価値関数で結果の感情インパクトを主観的に評価し、
- 加重関数で起こりやすさを主観的に評価し、加重された価値が最大のものを選ぶ。
この記事では行動経済学の柱であるプロスペクト理論について、誰でもわかるようにサクッと解説します。
プロスペクト理論とは
プロスペクト理論とは、不確実な環境に置かれた人が、どのように行動(選択)するか、を説明する理論です。
不確実環境とは、確率で損や得が発生する状況のことです。たとえば、
・株式投資の銘柄を売買するときにどう悩むか
・手術の成功率が80%と聞いてどう思うか
・降水確率が30%と聞いてどう思うか
などで、損得は金銭的なものに限りません。
このような不確定環境下では、意思決定までに編集、価値関数、加重関数の3段階を経ます。
株式投資を例に、3つの段階を掘り下げてみましょう。
理論の3段階
編集(認知的節約)
編集とは、無意識下に対象の要素を切り捨てて、最初から選択肢が絞られてしまうことです。
全ての要素に着目せず、いくつかの重要な要素だけを見て比較する。
そのように要素を簡略化しながらベストな選択肢を探ろうとしがちです。
例えば、3つの株式の中から1つを買おうとしているとき、直近の配当やチャートばかりに着目し、まずは2社に絞ろうとしませんか?
本当は財務健全性や信用倍率なども検討した方が良いことを知りつつ、目立つ要素や自分が知っている要素だけに着目しがちではないでしょうか。
これは、選択するというストレスを和らげるために無意識で働いてしまう心理なのです。
この編集で、無意識に選択肢が絞られます。
今回は配当性向の良さが目立った2つの株が残りました。
価値関数
価値関数は、損得を主観的に評価するグラフです。
ここでは、それを選ぶことで起こる損得が、自身にとってどれくらいのインパクトとなるかを評価します。
グラフの傾きが左右で異なるので、同じ金額の損得でも感情インパクトが異なることを示しています。
①参照点…グラフの原点で、評価の基準となるポイントです。
例えば、「去年の一株当たり配当が100円だったこと」を参照点とします。
②満足な感情…増配すれば嬉しいですよね。
「今年の配当は150円に増配されそう」という噂を聞いたとします。
このときの感情インパクトはプラスで、大きさは②の点としましょう。
③不満な感情…逆に減配すると悲しいですよね。
「配当は50円に減配されそう」と聞いたとき、感情インパクトはマイナスで、大きさは③の点でした。
これにより、損失を避けたい心理が働くことになります。
つまり同じ50円の変化でも、損する方がより強くイヤだと感じることになります。
一般的に、悲しみは喜びの2倍程度のインパクトとなるようです。
この価値関数で、結果の望ましさが主観的に評価されます。
加重関数
正確には確率加重関数といい、結果の起こりやすさを主観的に評価します。
レアな事象ほど過大評価しがちです。
①宝くじがいい例で、10億円が当たる確率は極めて小さいとわかっていながらも、もしかしたら当たるかもと過大評価した結果、くじを買ってしまう心理です。
また、よくある事象ほど過小評価しがちです。
②先ほどの株選びだと、「IRからみて今年は105円の配当がほぼ確定の株」よりも、「不確か情報だが今年は150円予想の株」の方が魅力的に思えるのではないでしょうか。
この加重関数で、過小もしくは過大評価として、事象に重みづけされます。
最終出力
編集、価値関数、加重関数の3段階を経て、最終的にとる行動が決まります。
今回は、他の財務指標などは重視せず「直近の配当性向が良く、今年は100円→150円の増配が噂されている株」を選んだ、ということにしますね。
株式投資に限らず何かを選ぶときには、
・まず「編集」によって選択肢を絞り、
・結果の感情インパクトを「価値関数」で主観的に評価し、
・起こりやすさの程度を「加重関数」で評価して、主観的に加重された価値の合計が最大のものを選ぶ、ということです。
例として、ピクニックを計画している場合を考えてみます。
①向こう1週間で降水確率が低い日を狙い、候補日を2日に絞る。
②降水確率はそれぞれ20%と30%で、絶対に雨が降ってほしくない(損したくない)と考える。
③でも、20%の日はもし降ったら大雨予想なので、必要以上に心配になる。
結果、降っても大雨ではなさそうな降水確率30%の日に決定する、という具合です。
やりがちな投資行動を振り返る
プロスペクト理論を、よくある投資行動に当てはめてみましょう。
小さく利確して大きく損してしまう…
人は、利益が出ているときは早めに利確したいと考え、損しているときはリスクを負っても取り返そうとします。
そのため、保有株が暴落したときに「ホールドしていればまた株価が復活してくれるはず」と期待し、売らずに何年も塩漬けにしてしまうのです。
私サクリも3600円で買った個別株が下落し、3000円で損切るつもりが2500円まで落ちても売れず、やっと2900円まで戻ってきたところです。
プロスペクト理論を意識した対策として、小さく利確するのと同じ値幅で、小さく損切りする、というのが考えられるでしょう。
人のことは言えませんが…
ナンピン買いをしてしまう心理…
こちらも同じで、ナンピン買いをして平均単価を下げていれば、いつか上昇したときに利益が狙える、と期待した結果です。
おそらく実際は何年も株価が戻ってこないことが多いでしょう。
対策はやはり損切りで、特に損切り水準を決めておくことでしょうか。
なかなか損切りができない…
まさに価値関数の損失回避心理ですね。
3000円で買い、3500円で売り5万円の利益を得た喜びよりも、2500円で損切りして5万円の損失となったときの方がインパクトが大きく、がっくり落ち込んでしまうでしょう。
5万円の利益時は「5万円なんて軽く旅行したらすぐ使い切っちゃうな~」と考え、損失時は「あ~5万円あればあれもこれも買えたのにな…」と、同じ額なのに感じる重みが違うのです。
損益というよりメンタル対策として、「どっちも同じ5万円で、価値関数に騙されているだけだ」と認識すると、だいぶ気が楽になると思います。
私サクリも損切りが苦手なのですが、そのように考えることでより機械的にサクッと損切りできるケースが増えました。
まとめ
今回は、行動経済学のプロスペクト理論について、株式投資を例に解説しました。
- 人が、不確実な環境ではどのような行動をするか、という理論。3つの思考過程がある。
- 編集でまず問題を簡略化し、
- 価値関数で結果の感情インパクトを主観的に評価し、
- 加重関数で起こりやすさを主観的に評価し、加重された価値が最大のものを選ぶ。
よく、価値関数だけを示してプロスペクト理論の説明としていることがありますが、損失回避の心理を説明しているだけで、これ単体では理論の一部に過ぎません。
ただ、損失回避心理が当てはまる場面は非常に多いので、理論全体にこだわらず気軽に学ぶ、という点では充分だと思います。
以下の本は、心理学を知らない私からしても、とてもわかりやすい内容でした。
2010年の本なので中古しかなく、送料込みで600円程度で買えます(2024年2月現在)
投資に関するオススメ本は、以下でも紹介しています。
また理論つながりで、現代ポートフォリオ理論についてもサクッと解説しています。
投資は、銘柄や市場の知識を学ぶだけでは勝てませんし、そもそもがランダムな事象です。
そこに、メンタル面を強化するのに行動経済学を混ぜてみると、負けが減らせるかもしれませんね。
参考文献
図解よくわかる行動経済学(2010年、秀和システム)
→本記事ではこの本から一部引用しています。
引用元では「過重関数」と記載されていたものを、当サイトでは独自に「加重関数」と表記を変更しています。
https://kitaguni-economics.com/prospecttheory-investandfx/
https://swingroot.com/prospect-theory/#st-toc-h-5
※文中に出てくる具体的な投資商品などは、内容をわかりやすく解説するためだけに用いており、これらの商品への投資を勧めるものではありません。実際に投資するかの判断は自己責任にてお願いします。