金融所得課税で話題になる1億円の壁ですが、どのデータを参照しているのでしょうか。
この記事では、「1億円の壁」の折れ線グラフの元となるデータを探し出し、自力でグラフを描いてみます。
グラフが恣意的であるとする指摘もあることですし、データに懐疑的な方の参考になればと思います。
- 元となるデータは国税庁の「申告所得税標本調査」
- 調査結果(統計表) 第1表 総括表その1
- 横軸…合計所得階級
- 縦軸…税負担率=(源泉徴収税額+申告納税額)÷合計所得金額
グラフの詳細はどこにも載ってない
1億円の壁というワードでググって出てくる記事には、補助資料としてグラフが出てくるものの、横軸・縦軸に関する情報はスルーされている現状です。
せっかくのグラフも自力で読み解けなければ意味がありません。
読み解くためには軸の情報が必要です。
おそらく1億円の壁についてここまで追求する方はいないでしょうが、いつか誰かの役に立つかもしれないので、簡単にまとめました。
今回参照するデータは、国税庁が毎年公表している「申告所得税標本調査」の令和4年分(2022年分)です。
このうち、第1表 総括表その1というページのみ使います。
なお国税庁の統計情報ページには、他にも民間給与実態調査など気になる資料が公表されているので、興味があれば漁ってみるのもよいでしょう。
横軸
横軸は表の数字をそのまま使うだけなのでシンプルです。
先ほどのPDFの32ページ目。
一番左の「合計所得階級」欄の数字をそのまま使います。
70万円以下、100万円以下、150万円以下…という具合に、最後の100億円超までを横軸データとしてプロットします。
縦軸
縦軸のデータは計算して求める必要があります。
3つの数字を使います。
はじめにどういう計算をするか明示しておくと、
(源泉徴収額の金額+申告納税額)÷合計所得金額
です。
源泉徴収税額の金額
右から2列目、「源泉徴収税額」欄の「金額」の数字を使います。
例えば合計所得金額1億円以下のクラスでは、該当する数字は458,437百万円です。
458,437百万円…(A)
申告納税額
一番右の列の、申告納税額の数字を使います。
合計所得金額1億円以下のクラスでは、該当する数字は487,732百万円です。
487,732百万円…(B)
合計所得金額
左から3列目、「合計所得」欄の「金額」を使います。
例えば、合計所得金額階級が1億円以下クラスの場合、該当する数字は3,591,192百万円です。
3,591,192百万円…(C)
(A+B)÷C で縦軸が出る
見つけた3つの数字を使い、(A+B)÷Cを計算すると縦軸の数字が出ます。
縦軸は税負担率を表し、合計所得のうち何%が税金で取られているかを示します。
合計所得金額1億円以下のクラスでは、0.263となりました。
つまり26.3%です。
これを全クラス分計算します。
グラフはこうなる
グラフはこうなります。
ネットに落ちているグラフと同じ形になっていることから、妥当な精度であるといえるでしょう。
1億円の壁も健在です。
自力で描くことのメリット
グラフが恣意的なものか判断できる
どの数字が使われているかがわかるので、ニュースで出てくるグラフが正しいものなのか、偏ったデータになっていないかを判断することができます。
例えば合計所得階級が2億円までしか描画されていない場合は、1億円の壁を認識するのは難しいかもしれません。
そういったときに先の階級まで含めてグラフを描画すれば実態を確認することができ、ニュースの見方も変わってくるはずです。
過去のグラフと比較できる
毎年似たような形のグラフになっていますが、細部では微妙に異なっています。
例えば以下の平成30年(2018年)のデータのグラフは、100億円超のクラスまで右肩下がりとなっています。
しかし今回描画した令和4年(2022年)のグラフでは、100億円超クラスで上向きに反発しています。
だからなんだという話ですが、こうした細かい違いにも気づくことができます。
こんな指摘も
以下の記事で引用されているように、このグラフは標本群が偏っており、正確さに欠けるのでは?という指摘があります。
→ Vol.658 「グラフのトリック」 – SC & パートナーズ
まとめ:無駄ではない
今回は、金融所得の1億円の壁のグラフを深堀りしました。
- 元となるデータは国税庁の「申告所得税標本調査」
- 調査結果(統計表) 第1表 総括表その1
- 横軸…合計所得階級
- 縦軸…税負担率=(源泉徴収税額+申告納税額)÷合計所得金額
皆さんもこの記事に辿り着いた時点でだいぶニッチな目的だとは思いますが、検索目的のヒントになればと思います。
参考文献