「確定拠出年金(DC)を解約できないのはわかったけど、それでもお金がない…どうすれば?」
DCを始めた後になって経済的に厳しくなったり、DCへの拠出をもったいないと感じることが出てくるかもしれません。
今回は、解約以外でDC拠出の負担を減らす方法を、2つ紹介します。
- 減額:それでも最低5000円は払う必要がある。
- 拠出の一時停止:ただしランニングコストはかかる。60歳までは引き出せない。
- 企業型DCは色々と渋い:停止や移換は、結局は企業の年金規約次第なので、各自で要確認
どうしても解約したい
確定拠出年金はほぼ不可能な条件を達成しない限り、中途解約(=積立残高の引き出し)できません。
しかしその代わり、毎月の拠出を減らしたり、一時停止することはできます。
申請すれば拠出を再開できるので、「数年間だけ拠出を止めたい」といった場合にも使える方法です。
※2018年1月より、12月から11月までの範囲で、複数月ぶんをまとめて拠出することや、1年間分をまとめて拠出することができるようになりました。
減額
概要
iDeCoについては、毎月の掛金を減らすことができます。
年に1回だけ(12月から翌11月までの間に)変更できます。
ただし、設定できる下限は月5000円です。
なお企業型DCの掛金額を変更できるかどうかは、企業ごとの年金規約によります。
従って本稿では解説しきれず、減額についてはiDeCoに限定してのお話となります。
方法
加入しているiDeCo運営管理機関(金融機関)へ、自身に合う加入者掛金額変更届を提出します。
加入者掛金額変更届(第1号被保険者用)付加保険料納付等に関する届(K-009A)
加入者掛金額変更届(第2号被保険者用)(K-009B)
加入者掛金額変更届(第3号被保険者用)(K-009C)
加入者掛金額変更届(任意加入被保険者用)(K-009D)
加入者自身が行う手続きはこれだけですが、反映までは月単位で時間がかかります。
どれくらいかかるかは、運営管理機関に確認すれば知ることができます。
減額する注意点
最低拠出額が5000円なので、いくら減額しても月5000円の拠出は止められないことになります。
5000円といえば一人暮らしの1週間分の食費が賄えますから、人によってはこれも拠出しづらいかもしれません。
また、年に一度しか変更できないので、変更後すぐに経済状況が改善しても、1年間は掛金を変更できません。
その1年間で相場が大きく変動した場合、拠出額によっては利益を取り損ねる可能性もあります。
iDeCoは追納できないので、悔しい思いをするかもしれません。
ちなみに、転職・退職等で掛金上限額が変わる場合は年一度の変更とはみなされないため、各種変更手続きとあわせて掛金額を変更できます。
拠出の一時停止
概要
iDeCoについては、掛金の拠出を一時停止することができます。
停止できる期間の定めはないので、実質拠出を終了することができます。
しかしコストはかかるので注意が必要です。
企業型DCについては、会社の年金規約に停止の定めがあり、条件を満たせば停止できます。
逆に言うと、規約に定められていなければ停止することはできません。
企業型DC等の年金規約は、労使合意の上で企業が作成します。
企業型では一般的に、会社都合以外の休職期間や育児・介護休業中など、無給の期間については拠出を停止できます。
ただし、産前産後の休業期間については拠出を停止できません。
これは、産前産後休業は法律で義務付けられているもので、会社都合以外の理由とはならないためです。
方法
iDeCo
加入している運営管理機関に加入者資格喪失届(様式K-015号)を提出します。
場合によっては、「加入者の資格を喪失した理由及び喪失年月日を明らかにする書類」の添付が必要です。
- 日本国内の住所を有しなくなったとき
- 上記以外の理由により国民年金の被保険者でなくなったとき
- 運用指図者となるため
- 国民年金の保険料の納付を本人申請により免除されたとき
- 農業者年金の被保険者になったとき
- iDeCoの老齢給付金を請求するとき
- 公的老齢年金の受給権者となったとき(繰り上げ請求した場合を含む)
手続きが完了すると、「加入者」から「運用指図者」になり、資金の拠出はせず運用指図だけする人になります。
つまり拠出しなくて済むようになります。
ただし、運用資産の引き出しは60歳になるまで不可能です。
資金凍結は解除できないんですね…。
「加入者」とは、資金拠出と運用指図の両方を行う人のことです。
「運用指図者」とは、運用指図だけ行い、資金拠出をしない人のことです。
企業型DC
企業型DCの停止条件は会社の年金規約次第なので、本稿では解説しきれません。
法律上、60歳以上で条件を満たせば運用指図者となることができ、拠出を止められます。
しかし本稿は定年まで年数がある20~50代の方が対象なので、現役世代が企業型DCの拠出をゼロにする方法はないと考えた方がよいでしょう。
ただし、勤め先の規約によっては可能かもしれないので、気になる方は早めに会社に確認した方がよいでしょう。
一時停止の注意点
運用指図者になっても、毎月の口座管理手数料はかかります。
そのため、手数料を上回る利益を出さないと、それまで積み立てた資産が減ってしまいます。
- 移換時手数料(初回のみ)…2829円
- 毎月の口座管理手数料(毎月)…66円+運営管理機関ごとに異なる手数料
→三菱UFJなど大手は400円弱、マネックスなどネット証券はゼロ円が多い - 給付時(その都度)…440円
- 還付時(その都度)…1048円(国民年金基金連合会)、440円(信託銀行)
ランニングコストは最安で毎月66円、年間792円かかることになります。
拠出済みの資産を運用し、年間で1000円程度のプラスにしないと手数料負けとなります。
逆に言えば、年1000円の無駄な手数料を許容できれば、iDeCoの拠出をゼロにすることができます。
ただし凍結された資産の運用は続くので、受け取り時に資産が目減りしている可能性は理解しておかねばなりません。
また、強制一時停止となるパターンがあります。
「停止する手間が省けてラッキー☆」と喜べるものではありません。
これは、昇給などにより企業型DCの拠出額が増え、iDeCo部分の拠出が5000円を下回るようになると、強制的にiDeCoの拠出を止められるものです。
正確には0円での拠出という設定にされ、放置していても管理手数料がかかります。
企業型の増額が一時的なものである場合や、給与から天引き拠出(選択制DC)を選んだ場合は、再度iDeCo加入手続きをすることで拠出を再開できます。
企業型の拠出が減らせない場合はiDeCoに資格喪失届を出し、拠出を企業型DCに全振りすることになります。
裏ワザを検討してみた
iDeCoの拠出は一時停止できることがわかりました。
でも、企業型DCを止めるには転職に伴ってiDeCoに移換する以外の方法がありません。
DCのために転職するのも現実的ではない気がします。
60歳未満の方が、転職せずに企業型DCの拠出をゼロにすることは、本当にできないのでしょうか?
松井証券のチャットサポートに聞いてみました。
Q.転職をせずに企業型DCの全資産をiDeCoに移換できますか?
・企業型の運用指図者になることは可能だが、全てiDeCoに移換できるかは不明。
・現制度では、転職を伴いiDeCoに移換することは可能。
・企業型の全資産をiDeCoに移換することが脱退と等しい扱いになる可能性があり、勤め先の規約を確認すべし。
とのことでした。
証券会社でさえ、転職を伴わないiDeCoへの全移換というケースは確認できなかったようです。
60歳未満で企業型DCの拠出を止めたい方は、拠出額をできるだけ少なくすることで、解約や移換の代わりにするしかなさそうです。
ちなみに松井証券のチャットは、待ち時間が全くなく、ファーストレスポンスも2分くらいで返してくれました。
今回のようなマイナーな質問など、ググっても出てこないような疑問があるときは、特に心強いですね。
(参考)解約するための条件
企業型でもiDeCoでも、拠出を始めて間もなかったり、少額の拠出に留まっている場合には、解約(積立資産の引き出し)をすることができます。
企業型とiDeCoでそれぞれパターンが違います。
本章は、「確定拠出年金法 附則抄 第二条の2 脱退一時金」の項をもとに書いています。
企業型
個人別管理資産が15000円以下の場合
以下をすべて満たす場合に解約できます。
- 企業年金の加入者・運用指図者でないこと
- 個人型年金の加入者・運用指図者でないこと
- 個人別管理資産額が15000円以下であること
- 企業型DCの資格を喪失してから6カ月以内であること
個人別管理資産とは、確定拠出年金の加入者や運用指図者が積立、運用する資産のことです。
運用により変動するので、拠出総額とイコールではありません。
この資産が15000円以下ということは、拠出を始めた直後とか、毎月数千円くらいの少額拠出でないと満たせない条件です。
多くの方は次のパターンとなるでしょう。
個人別管理資産が15000円を超える場合
以下をすべて満たす場合に解約できます。
- 企業年金の加入者・運用指図者でないこと
- 個人型年金の加入者・運用指図者でないこと
- 60歳未満であること
- iDeCoに加入できない者であること
- 日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でないこと
- 確定拠出年金の障害給付金の受給権者でないこと
- 通算拠出期間が5年以下、または個人別管理資産の額が25万円以下であること
多くの方は、拠出5年以内、もしくは個人別管理資産25万円以下、に引っかかるとおもいます。
企業型DCで毎月2万円を拠出すると、開始して2年目で条件を満たせなくなります。
こちらも実質、DCを開始した直後に手続きをしないと間に合いません。
iDeCoに加入できない者とは、
・国民年金第一号被保険者で、保険料の免除を申請している方
・または、生活保護を受け国民年金保険料の納付を免除されている者
・日本国籍を有しない海外居住者
などが該当します。
iDeCo
以下をすべて満たす場合に解約できます。
- 60歳未満であること
- 企業型DCに加入していないこと
- iDeCoに加入できない者であること
- 日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でないこと
- 確定拠出年金の障害給付金の受給権者でないこと
- 通算拠出期間が5年以下、または個人別管理資産の額が25万円以下であること
- 企業型確定拠出年金またはiDeCoの加入者の資格を喪失してから2年以内であること
iDeCoも企業型DCと同様、実質開始直後に手続きをしないと間に合わないでしょう。
まとめ
今回は、解約する以外の方法で確定拠出年金の拠出負担を減らす方法を深堀りしました。
- 減額:それでも最低5000円は払う必要がある。
- 拠出の一時停止:ただしランニングコストはかかる。60歳までは引き出せない。
- 企業型DCは色々と渋い:停止や移換は、結局は企業の年金規約次第なので、各自で要確認
制度全体を見てみると、色々と柔軟に変更できるのはiDeCoのようです。
企業型DCは会社が資金を拠出してくれる反面、個人ではどうすることもできない縛りが多い印象です。
企業型も個人型も、一度始めると基本的には60歳まで資産が拘束される点は同じです。
強力な節税効果をもつ確定拠出年金ですが、加入前に慎重な検討が必要であることは間違いないでしょう。
参考文献
https://tfp-group.co.jp/media/defined-contribution-cancellation/
https://www.tr.mufg.jp/tameru/dc/secession/
http://dc-clip.com/2021/04/30/zigyounusihennkann/
https://ideco.kddi-am.com/ideco/howto/recipient/withdraw/
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000088_20230616_505AC0000000063
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/gaiyou.html
https://www.ideco-koushiki.jp/join/
https://www.mhlw.go.jp/content/000653917.pdf
https://ndc-center.jp/faq
https://www.pfa.or.jp/yogoshu/ne/ne09.html
http://401k.iikaisya.com/%e3%81%99%e3%81%b9%e3%81%a6/kakekinkyosyutsu/
https://mshr-sr.jp/info/2908/
※文中に出てくる具体的な投資商品などは、内容をわかりやすく解説するためだけに用いており、これらの商品への投資を勧めるものではありません。実際に投資するかの判断は自己責任にてお願いします。